この悲しみも。……きっといつかは消える

第35話

 その男はすこぶる良い男だった。

 容姿だけは、マリー史上最高のウィラード・フェルドンと、全く同じ顔をしていたからだ。
 お揃いの綺麗な顔をした金髪碧眼のふたりが並んでいる姿は、マリーには壮観だった。




 ある日、メラニーを迎えに行ったローラより一足早く家に帰ったマリーは、ドアが開いていたキッチンでウィラードと立ち話をしている男を見かけた。

 後ろ姿だけでも身なりは立派で、職人が多い西区では見かけない装いに。
 南区に住む貴族が、どうしてキッチンなんかでウィラードとおしゃべりしているのかと思った。

 その時、人の気配に気付いた男が振り向いて。
 マリーは、その顔を見た。
 ローラが帰ってきたのかと勘違いしたのか、男は浮かべていた微笑を引っ込めて、一瞬で無表情になった。 


 それを取り繕うかのように、ウィラードがマリーのことをローラの幼馴染みだと紹介したが、男は名乗らず愛想笑いさえしない。


 いつも優しいウィラードが無愛想になると、こんな感じなんだと。
 腹が立ちながらも、その冷たさに惹かれてしまうマリーは彼に近付こうと一歩踏み出したが、後から帰宅したローラに腕を掴まれて、外に出された。



「今夜は遊びに行くんでしょ?
 急いでたわよね、行ってらっしゃい!」

「ちょ、ちょっと待ってよ、誰なのよ、あのひと。
 ウィラードは双子だったの?」

「……」

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