この悲しみも。……きっといつかは消える
「あれだ、あれ。
 王子様と街の貧乏人が、実は双子の童話あったよね!
 あんたの旦那もちゃんと着飾ったら、王子様みたいだもんね!」


 帰ってきた時には気付かなかったが、少し離れた場所に立派な馬車が停まっていた。
 あの馬車に乗って、王子様は生き別れた双子の貧乏人に会いに来たのだとわかった。


「もう!大きな声を出さないで。
 皆が集まってくるじゃない!」

「あんたの声の方が大きいけど、なんなら今から叫んだって良いのよ。
 訳を話してくれなきゃ、ね」


 そうローラを脅して、マリーはスチュワートのことを聞き出した。



「スチュワート様には、奥様もちゃんといらっしゃるの。
 今は身籠られてて、あの御方はそれはもう、大切にされていて。
 4ヶ月目に入られた奥様の悪阻が激しくて、とてもご心配なさってる愛妻家よ。
 下手に手出しをしたら、無礼討ちされるのを覚悟するのね」


 いつも何も言い返せなかったローラが、夫の弟の権力を笠に偉そうに言ってくるのが、腹立たしかったが。
 ここに居ても、ちゃんと紹介などしてくれるはずもないだろうし、スチュワート本人も全くその気をみせていなかったので、無駄なことに頑張らない主義のマリーは、そのまま約束していた男に会いに行った。


 そんな風に、スチュワートとマリーは、一瞬すれ違っただけなのに。

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