この悲しみも。……きっといつかは消える
 今では、マリーは彼の娘を産んだ愛人として、アダムスの邸に居る。
 

 こんなに簡単に中に入れるとは思っていなかった。
 最初はローラを騙るつもりはなかった。
 スチュワートからメラニーを連れてきた謝礼を貰おうと思った。
 自分の名前を出しても、伯爵様には会えそうもないから、ローラの名前を出しただけ。
 すると、彼は亡くなったとメイドが言う。


 時期を聞いたら。
 なんとウィラードが死んだのと同じ頃だ。
 同じ時に生まれた双子って、同じ時に死ぬんだと、怖いような、不思議な気持ちになった。



 メラニーには、ここへ来るまでに言い聞かせてきた。
 わたしの言うことを聞いて、いい子にして居ないと、サーカスに売り飛ばすよ。


 まだ3歳のメラニーにとってサーカスは未知の存在だったが、マリーの言い方が恐ろしくて、彼女は頷いた。
 幼い頃から他人に預けられていたメラニーは、大人の言うことを聞くことに慣れている。

 優しかった両親やエリンからは、脅されたこと等なかったが。
 これからはこのひとの言うことを聞かないと、ひどい目に合わされるのは、もう充分思い知らされていた。
 早く歩けだの、食べるのが遅いだの。
 何度もつねられたり、小突かれたりしてきたからだ。



 スチュワートの妻は綺麗な女だったが、自分のことをローラだと信じこんで、張り合ってきたので、それ風なことを並べ立てた。

 
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