この悲しみも。……きっといつかは消える
 エリンからはお金を貰えたけれど、自分の服とメラニーの古着を買ったのと、ここまでの乗合馬車賃で、残りは僅かだった。
 メラニーの荷物の中には、エリンが用意した実用的でありながら、可愛らしい服が何枚も有ったのに、それも全て売却した。
 当然のように、シスターマギー宛のエリンの手紙は途中で破り捨てた。


 ミルドレッドに重いと言ったトランクの中身の大半は、マリーが購入した質より見た目だけは派手な安物のドレスだった。
 マリーはそれを着ることで、執事や侍女と言った領内貴族家出身の上級使用人達から『安物買いのローラ』と馬鹿にされていることも、知らなかった。


 ミルドレッドの様子から、王都でのスチュワートのことを全く聞いていないのを確信したので、駄目で元々とウィラードの名前を出さずに、メラニーの為にお金を貰えないかと言ってみると。
 証拠だの言い出されて焦ったが、見えないようにメラニーをつねるとうまい具合に泣き出したので、ミルドレッドは居なくなった。
 ……それもアダムス邸からだ。


 伯爵夫人を追い出すつもりなんて無かったし、この家に居座る気もなかったのに。
 年に何回か、まとまったお金が欲しかっただけだ。


 無礼討ちという言葉が忘れられなかった。
 ローラと名乗ったけれど、愛人とは言わなかったし、メラニーだってスチュワートの娘とは言っていない。
 何もかもばれても、それを言い訳にしようと思っていたが、いつもびくびくしていた。


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