この悲しみも。……きっといつかは消える
 ミルドレッドが夫から何も聞かされていないと知り、マリーは適当に話をでっち上げ、自分がスチュワートの愛人だと思い込ませた。

 誤解をさせるよう言葉巧みに誘導し、定期的に金を引き出そうとしたのは、平民が貴族の正妻相手に詐欺行為を働いたと見なせるだろう。


 その罪を突き付ければ、マリーはこちらの言うことを聞くしかない。



「ヴィスが言っていた『有利なカードをリチャードより早く手に入れる』は、マリー・ギルモアだったと言うことか。
 ……このことアダムス夫人は納得済み?」

「気持ちは複雑だと言っていたが……
 このままでは、レナードに嫁がなくてはならないだろう?
 それを避ける為なら、仕方がないと言っていた。
 それよりも、ミリーが心配しているのはメラニーのことだ。
 家系図から消されているウィラードの娘を、あのリチャード・アダムスがどうするかは、ちゃんと確認しないといけない」


 また、リチャード・アダムスの名前が出たなと、イアンは思った。
 これまで特に重要人物だと思えなかったから、調べたこともない男だ。

 前レイウッド伯爵であるバーナードの弟で、スチュワートの叔父。
 アダムス家の男性陣が比較的若死にしている中で、ひとり長生きし続けている男。


「リチャードって、どんな奴?」

「御家第一主義で、ミリーとレナードの再婚をお膳立てした奴。
 御家の為なら、黒い物でも赤い物でも、白いと言い張り、周囲にそれを強要する奴」


 そんな男が一族を仕切っているのなら、メラニーは……どうなる?
 リチャードの為人を知るミルドレッドの心配が、手に取るように分かるイアンだ。


 ミルドレッドとは、全く血が繋がっていないのに。
 両親に代わって保護をしてくれるはずだった祖父や叔父を失ってしまった、幼いメラニーのこれからを心配して、彼女は胸を痛めていた。

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