この悲しみも。……きっといつかは消える
 その理由くらいは、はっきり答えてあげればいいのにと、相変わらず黙って自分を睨んでいるリチャードを、ミルドレッドは見返した。
 

 いいわ、貴方が答えないなら、わたしが言う。
 もう貴方を、恐れたりしない。
 


「わたくしが教えて貰えなかったのは、余所者だから。
 レナード様が教えて貰えなかったのは、伯爵家を離れて平民になる予定だったから、でしょう」

「女が、余計な口を挟みおって!
 黙らんか!」


 ようやくリチャードが言葉を発したのは、ミルドレッドに対してだった。
 その暴言に対して、立ち上がり掛けたジャーヴィスの腕をミルドレッドが抑えた。



 この男は追い詰められていても、ミルドレッドにだけは強く出るのかと、イアンは拳を握った。
 彼の家は今では平民だが、誰ひとりとして女性に対して、その発言を抑えつけるようなことはしない。
 このリチャード・アダムスを完膚なきまでに叩き潰したいと、イアンは切実に思った。


 スチュワートとウィラードの母メラニーが何の問題を起こしたのかは、まだ分からない。
 しかし、父親が離縁した妻と長男を気に掛けていたのなら、少なくとも彼自身が離縁を希望したのではないと、想像はつく。

 バーナードがウィラードをアダムスに連れ戻せなかったのは、この男が強硬に反対したのではないか。
 そう思えてならないイアンはゆっくりと手を上げて、皆の注目を集めた。



「では、全てのご事情をご存知のはずのアダムス子爵が何も語ろうとなさらないので。
 僭越ながら、ここからは私が。
 調査した結果わかった範囲まで、レナード卿にご説明致します」

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