この悲しみも。……きっといつかは消える

第41話

 レナードが見せた暴力性に、メラニーは侍女のドレスを掴んで震え、素早く逃げ出したマリーも立ち上がっていたジャーヴィスの後ろに隠れた。

 男の暴力等に一番慣れていないミルドレッドも最初は目を見張っていたが、直ぐに軽蔑の眼差しをレナードに送っていた。


 イアンが感心したのは、ミルドレッドの専属侍女だ。
 顔色ひとつ変えずに、泣き出しかけたメラニーをあやしている。
 この年齢で、ここまで肝の座った女性は居ない。
 きっと彼女がジャーヴィスの協力者なのだと理解した。

 周囲を騙し続けた天晴れな侍女は、美しいジャーヴィスを見ても、特に反応せずに視線も向けない。
 だからこそ、わかった。
 ヴィスのモットーは、適材適所だ。
 どれ程有能であろうと、自分に恋心を持つような人物を、協力者にはしない。




 自分に向けられた、ミルドレッドの視線に気付いたレナードが慌てて抵抗するのを止めたので、イアンが解放したのと。
 素早い彼の動きに呆気に取られていたリチャードが我に返ったのは、ほぼ同時だった。



「お前、誰に向かって!」

「誰に、って。
 いきなり女性に手を上げようとする野蛮人に、ですけど?」


< 148 / 229 >

この作品をシェア

pagetop