この悲しみも。……きっといつかは消える
 レナードが夫の後を継ぎ、次期伯爵となるのは後3ヶ月はかかりそうで、それが終わるまでは当主夫人としてアダムス家に留まらなくてはならないのは理解している。

 来年の彼とサリーの結婚式の前には、わたしはここから解放されてウィンガムへ戻れるのだ。
 現状ではそれだけが、ミルドレッドの願いだ。
 レイウッドにはスチュワートの思い出が多すぎて、ここに居るのが辛い。


 そんなミルドレッドの行く先は領都の中心に位置する自然公園だった。
 専属侍女のユリアナを伴い、ただ時間潰しに池の周りを散歩するだけのミルドレッドに声を掛けてきたご婦人が居た。


 レイラ・シールズ……王都から派遣された地方行政査察官ベネディクト・シールズの奥方だった。



 レイラは決して噂好きの口の軽い女性ではない。
 夫の立場を考えると軽薄な真似は出来ないからだ。

 それでも、今回の悲劇に心を痛めているような夫のベネディクトからその王命の話を聞いたので、ミルドレッドを心配していた。



 同じ女性として、王命と言えどもこんな話は受け入れ難かった。
 何十年も前の戦時中なら、よくある話だったと思う。

『戦死した兄弟の妻を、生き残った方が娶る話』だ。




 ── 新たにレイウッド伯爵となるレナード・アダムスに、前伯爵夫人ミルドレッド・アダムスを娶らせる



 その王命が出たことをシールズ査察官の妻から告げられて、蒼白になったミルドレッドに、もう一言レイラ・シールズは付け加えた。
 その眼差しには同情の色が浮かんでいた。


「この沙汰はアダムス子爵からの請願書を、王家が受理されたからです」

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