この悲しみも。……きっといつかは消える
「私だと言いたいのか!
 さっきはウィラードの娘だと言ったろ!」

「お、俺だってあり得ない!
 俺は当時は18だぞ!」

「お前は馬鹿か!
 よくもそんなデタラメを!」


 カールトンに続いて、レナードが、リチャードが、己の無実を言い立てるのを、イアンは聞き流していた。
 元気に文句が言えるのは今の内だけだ。
 せいぜい吠えてろ。



「……と、皆様と同様のことを仰りたいのに、本人にはその弁明の場が与えられることはもう2度とない。
 ならば、わたくしが亡き主人の代わりにレイウッドの当主の冤罪を晴らしますとご決意されて、奥様はこの家を出られたのだとお聞きしました」



 そこまで言われて3人は、口を閉じた。
 最初からローラ・フェルドンを信じた訳ではなかった。
 だが実際にメラニーを見ると、スチュワートを疑ってしまい、あれこれと先延ばしにする内に、ふたりを受け入れるようになっていた。


 唯一、王都に住むウィラードの存在を知っていたのに。
 リチャードの頭の中には、切り捨てた彼の事等も思い浮かばなかったのだろう。




 ユリアナは顔に出さなかったが、嬉しかった。
 これで妻のミルドレット様のみが、旦那様を信じて出奔までしたのだと言う美談が出来上がった。


 以前、応接室の話が筒抜けに聞こえる所があるんですと、得意気に語ったハンナもこれを聞いているに違いない。
 彼女の口から下級使用人達に回り、領内でこの噂が広まれば、ミルドレッド様の人気はますます高まり、何もしなかった本家の男達の価値は下がる。


 さすがジャーヴィス様が連れてきた男は有能だわと、彼女は密かに喝采を送った。

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