この悲しみも。……きっといつかは消える
「先にお生まれになったウィラード様は足からの逆子だったのだと聞きました。
 左足がご不自由なのは、それを慌てた産婆が無理に足を引っ張った可能性も……」

「お前は! 憶測でいい加減なっ!」


 ユリアナの声を遮ったのは、やはりリチャードだ。
 イアンは、お前こそいい加減にしろと言いたくなった。
 どうせ、こいつには行くとこなんか無い、子爵家に戻るだけだ。
 もう帰らせてやれよと、カールトンに言ってみるか。
 だが、彼の代わりに発言したのはミルドレッドだった。



「……憶測ではないかも。
 医師も産婆もグロリア様がご用意されたのでしょう?
 今でもですけれど、出産は女性にとって命がけです。
 それを素人が行えば?
 出血多量や感染症で母親が亡くなっても、誰も不思議には思わない……
 でも奇跡が起こって、メラニーさんも双子も無事だった。
 グロリア様はどんなお気持ちだったでしょう?
 その後の医師と産婆は、どうなりました?
 ウィラード様の足の件が発覚したおりには?」

「……申し訳ありません、奥様。
 名前もその後も、記録に残っておらず。
 女医も産婆も、両名共に出産後は行方は不明なので。
 お答え出来かねます」



 予定とは違って、母子3名は生き永らえた。
 逃がされたのか、それとも口を封じられたのか。
 自分が用意した医師達のことを、グロリア様はどう誤魔化したのだろうか。
 

 遥か昔の歴史じゃない。
 わずか24年前の出来事なのに。

 何もかもが、不明だと言うことだ。

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