この悲しみも。……きっといつかは消える
「そうだ、そうだよ……
 兄上は王家の何かがあって、メラニーが心配だったけど、行かなくっちゃいけなくて……
 リック、メラニーと双子を頼む、って。
 けど……あの時、叫び声がして見に行ったら階段の中段ぐらいに母上が座っていて、下では泣いてるスチューを抱き締めたジュリアが倒れてた。
 2階を見上げたら、メラニーが走って来るのが見えたけど……
 そしたら、母上が『この女が、わたしを殺そうとした』と叫んで。
 何人もの奴らが本当は違うと言ってきたから、母上がバークレーの伯父上に連絡しろって。
 母上はキーキー言うし、あいつらはワーワー言うし、スチューはギャアギャア泣くし……皆がうるさかったんだ。
 メラニーは『お義母様にスチューを渡したら、あの子が殺される』と喚いていて、本当に気が触れたみたいに見えた。
 王都の兄上宛に『メラニーが母上を殺そうとしたから、それを知られている使用人は、全員解雇しました』と、伯父上に手紙を書かされた。
 王家の行事がずっと続いていて、兄上が勝手に領地に帰れない内に全部片付けて。
 メラニーとの離縁も決まって、兄上は……もう……何も頼んでくれなくなって……
 ……じ、10年くらい前にメラニーが死んだから……
 ウィルを呼び戻したいと言った兄上に『最初から兄上とジュリアが浮気をしていて、メラニーとウィルを追い出したように見られたら、ジュリアが気の毒だろうが』と言った。
 ほ、ほんとはウィルに会うのが、怖かったから……」



 ずっと母親に抑えつけられていたと思われるリチャードの心の闇が、垣間見えた。 


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