この悲しみも。……きっといつかは消える

第45話

 弾んだ足取りのハンナの後ろ姿を、ジャーヴィスは見送った。


 彼女のような目をした人間には、一度毎にきちんと報酬を与える。
 そして、簡単なことしか頼まない。
 功を焦るあまりに、彼等は余計なことをしがちだ。


 それ故ジャーヴィスは、ユリアナ・バークレーを選んだ。

 彼女のことは事前に調査済みだった。
 王命さえ出なければ、次期レイウッド領主の妻になるだろうと目されていた少女だ。
 しかし、それが順当に決まっていたかは分からない。


 婚約直後の挨拶に来た先代レイウッド伯爵のバーナード・アダムスが、自分がこの縁組を王家にお願いしたのを白状したと彼等が帰った後、父アイヴァンから聞いたからだ。



「バーナードは繰り返される血縁婚に、恐れを抱いていたんだろう。
 幸いなことに、スチュワートは一族外からの前妻の息子だ。
 異母弟に比べて、アダムスの血は薄い。
 ミリーの相手が、彼で良かったよ。
 少し話しただけだが、彼は見所があると思わなかったか?」



 
 バーナードの母グロリアの兄が、ユリアナの祖父に当たる。
 ミルドレットよりもひとつ年下の少女は、妹の嫁入り後、専属侍女になると云う。
 調査をしないではいられない。
 もし、スチュワートに横恋慕をしていて、ミリーに対して何かを仕掛けたりするのなら……と。



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