この悲しみも。……きっといつかは消える
 それは彼の使いをしたハンナだってそうなのだろう。
 自分の手を掴んでいた彼女の力が弱まって放されたが、もう遅い。
 もう逃げられないと、サリーは観念した。



「お前には、妹を逃がして貰った貸馬車代と、普通なら言えないようなことを敢えて言ってくれた礼をしたくてな」


 ジャーヴィスはそう言いながら、サリーの目の前に革袋を落とした。
 男性の握り拳大に膨らんだ革袋は、紐でしっかりと結ばれていたから、地面に落とされても中身は散乱したりしないが。
 硬貨の音が少しだけ聞こえ、その分地面にめり込んだ重みを感じた。
 一体いくら入っているのか、ハンナの興味はそれに移ったが、肝心のサリーは目もくれずに苦しそうに答えた。



「あ、あの馬車代金なら……既にミルドレッド様に。
 ……多めにいた、いただきましたので……もう……」

「そうか、もう要らないのか。
 存外、お前は欲張りではないらしいが、今日は妹を名前で呼ぶのか?」

「……お、奥様には」

「今日は、疫病神とは呼ばないのか、聞いている」


 知られている、知られている、知られている!
 そして、隣にはメイドが居る。
 このひとがどうして、この場にハンナが居てもいいと言ったのか、今になって分かった。

 
 自分がミルドレッドに対して『疫病神』と罵ったことを、レナードに知られてしまう!
 彼の怒りが直ぐに想像出来た。
 今はまだ殴られたことは無いが、これが知られたらもしかして。

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