この悲しみも。……きっといつかは消える
「私は怒っているわけではない。
 よくぞ言ってくれたと、思っているくらいだ。
 あの言葉のお陰で、ミルドレッドも自分はここに居てはいけない存在なんだと、身を引く決意をしたようだ。
 改めて礼を言うから、素直に金を受け取って、お前は一刻も早くこの家から出た方がいい。
 あの男から逃げろ」


 逃げろ? 殺されるのかと思っていたのに?


「前まではただのボンクラだったが、今のレナードは歪み始めている。
 さっきは急に興奮して、女性に手をあげようとした」


 女性と言われて、サリーに思い付くのは、今日戻ってきたミルドレッドだけ。
 身を引くと言った彼女を、レナードは殴ろうとした?


「お前がまだ殴られていないのだとしたら、それはまだ幸運なだけだったと思え。
 レナードが暴力を振るおうとした瞬間は、君も見たね?」


 ハンナに向かってだけ、優しい物言いになるジャーヴィスに真っ赤になってハンナが同意した。


「はい!はい!確かにレナード様が殴りかかって、誰かに止められて!」


 隣室では応接間の声は聞こえても、その姿は見えない。
 ハンナは嘘をついたのではなく、単にジャーヴィスに同意しただけ。


 それをサリーは信じた。



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