この悲しみも。……きっといつかは消える

第46話

 レナードが、ミルドレッドを殴ろうとした。

 それは、充分信じられることだった。
 新聞社で働き出してからのレナードは、酒を飲んで荒れることが多くなった。
 配属されたのが花形の編集部記者ではなく、総務部であることが納得出来ないようだった。



「レンはご領主様の息子よ?
 そんな貴方を『夜討ち朝駆け』の記者になんて使えないと、西部新聞のお偉いさん達だって思うんじゃないの?」


 サリーの実家であるグレイズプレイスは、そんな記者達も利用するから、彼等がよく使う業界用語でレナードを宥めれば。
 最初は素直に聞いてくれたのに、今では彼の怒りを煽るだけになっていた。


 殴られたことは、まだ無い。
 だが彼は興奮すると、よく腕や肩を掴む。
 その力の入れ方がどんどん強くなってきていることを、確かに感じていた……


「このまま、ここに留まろうが、出ていこうが、好きにすればいい。
 ただ男の暴力は一度許せば、際限は無い。
 あの男の鬱憤は、確実に一番弱いお前に向かう。
 逃げるのも、ひとりか、家族全員か。
 父親と話し合うのを勧める。
 忠告はしたから、金は素直に受け取れ」
 
「……ここを出ます、ありがとうございます」

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