この悲しみも。……きっといつかは消える
 サリーが頭を下げながら、革袋を拾おうとして身を屈めたその頭上から。


「……いつか、お前が子供を身籠った時。
 自分がミルドレッドに何を言ったのか、思い出せ」


 彼女は、ジャーヴィスから最後の言葉を投げつけられた。
 思わず見上げると、ウィンガム伯爵と目が合った。



「頭は、ずっと下げていろ」


 その眼差しに、人が人に向ける最大限の侮蔑と嫌悪を込めて。
 サリーは命じられた。



 頭を下げたまま、革袋を胸に抱き締めて足早に去るサリー・グレイの後ろ姿を見送りながらも、ジャーヴィスの関心は、もう既に別のところに移っている。

 
「君にもう一件、お願い出来るかな?
 次はふたり呼んできて欲しいから……」


 そう言いながら、いつの間にか隣に並んでいるハンナに、今度は銅貨を2枚見せた。



     ◇◇◇


 ようやくジャーヴィスが応接室に戻ってきた。

 無言で入ってきた彼に、イアンが「貴方を待っていたのに、一言も無しですか」と言うので。


「すまない、ここに戻ってくるのに、少し迷ってしまった」と、ジャーヴィスは取り敢えず詫びを口にしたが、イアン以外は誰も俺のこと等気にしていないじゃないかと思った。

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