この悲しみも。……きっといつかは消える
 しまった、どうして俺は黙っていなかった!


 静かにメラニーを降ろしたヴィス会長が、ゆっくりと自分に近付いて来るのが見える。
 殴られるのか、言い負かされるのか。
 分からないが、目を瞑って覚悟した。

 ……が、何も起こらない。
 目の前に来たのは気のせいだったかと、目を開ければ。
 やはりそこにジャーヴィス・マーチは立っていて。

 
 初めて真正面から『厳冬のヴィス』を見た。
 どこまでも深い緑の瞳がさえざえと、自分を見つめていた。


「人に対して、そんな風に思うのは。
 貴様がそんな二心を持っているからだ。
 スチュワートのことは、見殺しにしたとは言わない。
 ……だが、レナードに関してはそうだろう?
 どうして、ちゃんと見てやらない?
 あいつが間違っているのなら、直してやるのも貴様の仕事だ。
 息子が出来て、欲が出たか?」

「お、俺はそんな……」

「次に御家騒動が起これば。
 今度は王家も、見逃してくれない。
 もうこの家には、救国の英雄エルネストは居ない。
 ウィンガムは、アダムスと運命を共にする気はない。
 レイウッドを治めるのは、どの家だっていい」



 皆に聞かれている。
 そう思ったのに。
 踵を返してマーチ達の元に戻ったジャーヴィスに、イアンが「何を言ってたんだ」と聞いているのがわかって。


 
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