この悲しみも。……きっといつかは消える
 誰にも聞こえていなかったことに、カールトンは胸を撫で下ろして……
 心の奥底に燻っていた野心を捨てることにした。



 ウィンガムの連中が、ここから去ろうとしていた。
 最後に再び、メラニー・フェルドンを抱き上げ、ジャーヴィスが宣言する。


「本日より、義妹マリー・マーチの護衛1名、専属侍女1名を、レナード卿との婚姻締結の夜まで常駐させる。
 それまでにマリーが原因不明の病死、事故死、行方不明その他の事態を迎えることを防ぐ為だ。
 義妹だけでなく、護衛と侍女の併せて3名がもしそのような事態となった場合、査察官シールズ殿の強制捜査が行われること、お忘れ無きようお願いする。
 婚姻までの3名にかかる費用は、ミルドレッドからマリーに譲渡された持参金にて、よろしく頼む」


    
 ウィンガムに戻る5人を見送るのは、アダムスではカールトンただ1人だった。
 彼はどこかすっきりした表情を見せていて。
 明日からは心を入れ替えて、慣れないレナードの尻を叩くのだろうと、見て取れた。



     ◇◇◇


 ミルドレッドは、目の前の情景が信じられない。

 本家の使用人が全員、玄関扉まで両側に並んで、進む彼女の前で次々と頭を下げていく。


 下女やメイド達は深く頭を下げ、侍女達はカーテシーで腰をおとして挨拶をする。
 厨房の下働きも、料理長も。
 庭師や厩舎関係者達も、皆が並び。
 下男や侍従、執事達男性は皆、右手を胸に当て頭を下げる。


 それはこの家を去る、当主夫人ミルドレッドに対する使用人達の挨拶だ。

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