この悲しみも。……きっといつかは消える
「こちらはミルドレッド様のお荷物なんです。
 ケイト様がご用意してくださっていました。
 何を入れるか任せるからと仰せになって、ウィンガム伯爵様がご指示をされたそうです。 
 中をご確認いただけますか。
 旦那様の物も……」


 スチュワートの物と言われて、ウィンガムまで待てないのを、ユリアナは分かってくれていたようだ。


 ケイトの言う通り、どうしてこんなに出来るのに、このユリアナはずっと隠していたのかしらと、ミルドレッドも不思議に思う。
 だが、今はそれよりも先に。

 今は、スチュワートの遺品が気になった。



「旦那様からの他のアクセサリーやドレスの類いは、婚礼の日迄に荷造りして、ウィンガム伯爵様にお渡し致しますとのことでした」


 トランクのベルトをミルドレッドが開けると、あの朝彼女がケイトに「これを着る」と言い張った、あの薄いピンクのデイドレスが綺麗に畳まれて入っていた。

 それからリボンで結ばれたスチュワートとやり取りした何通もの手紙。
 亡くなる前に、病床のジュリアと毎朝交換したたった1行だけのカード類。
 エリン・マッカートニーの長手袋。



 そして見覚えの無い、東洋風の凝った螺鈿細工の、とても綺麗な蓋付きの箱。
 これがスチュワートの遺品だ。


 貴重な夜光貝を嵌め込んだこの箱ひとつでも、ちょっとした財産になりそうで、こんな高価な物を彼が個人で所有していたことに、驚く。
 ミルドレッドはそれを膝に乗せ、丁寧に蓋を開き。
 

 中を見て、泣き崩れた。

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