この悲しみも。……きっといつかは消える

第52話

 それは彼の17歳の誕生日から毎年、ミルドレッドが贈り続けた刺繍入りのハンカチーフが、8枚。

 彼はそれを使用せずに、丁寧に畳んで。
 この美しい箱に仕舞っていた。


 そして、時々取り出しては、年齢ごとに並べて。
 ミルドレッドの刺繍の技術が上がっていくのを、楽しんでいたのだろうか。



 13のわたしが刺した図案の簡単なこと。
 14の年は前年よりは少しはましになっているけれど、それでも単純な。
 15の年には、会いに来てくれた彼を意識するようになって、初めてアダムスの家紋に挑戦した。
 16からは図案探しから始まって、下書き、作成と1年かけるようになった。
 17は、18は、19では……年々図案と色彩は複雑になり、全体のバランスも考えた。
 そして今年の刺繍は四隅だけではなく、全面に施した。



 彼と過ごした20歳までの8年間の全てを、鮮やかに思い出す。
 受け取って貰った時の情景や。
 スチュワートの笑顔を。
 全てがはっきりと思い出された。


「ありがとう、大切にする」


 その短い言葉に、嘘はなかった。
 彼は本当に、わたしの想いを大切にしてくれた……



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