この悲しみも。……きっといつかは消える
「2ヶ月前の新領主襲名パレードは、レナード卿おひとりで行い、婚礼当日にマリーを領民に見せるのは、バルコニーからの花嫁のお披露目のみ。
 領主夫人を伴っての婚礼パレードは、祭りを優先して取り止めても、誰も不思議に思わない。
 領民への慶事振る舞いも、花祭りに併せれば一度で済む。
 その方が、ご都合がよろしいのでは?」


 如何にも、大々的にマリーを見せたくないレナードの意向に沿った提案のようにジャーヴィスは話したが、彼の本音はそこにはない。

 マリーに伝えた『結婚式まで守ってやる』は本当のことだが、期限は婚礼当日まで。
 この夜に護衛のボイド、侍女のルーシーはウィンガムに連れ帰るのも、決定していた。


 マリーには約束していた金貨18枚を、初夜の準備の為に花婿より先に披露宴会場から辞した時に、ルーシーから手渡すことになっていた。
 それを受け取ったマリーが、後はどうしようと構わなかった。


『王命によるレイウッドとウィンガムの結婚』さえ、行えば。
 式を執り行った司教印と立ち会った地方行政査察官のサインさえ、届け出書類にあれば。



 マリーがそのままアダムスに留まろうと、逃げ出そうと、好きにすればいい。
 それでも、祭りの夜なら逃げやすいだろうと、その夜に日程を合わせてやっただけだ。


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