この悲しみも。……きっといつかは消える
 社会に出ると同時に、実父からの援助を辞退したウィラード。
 ミルドレッドは彼の矜持を、娘のメラニーに伝えたいのだろう。



 ジャーヴィスには、メラニーがいくら可愛くても養女にはしないと言われている。
 隣領のアダムスの血筋だからだ。
 となると、いつかマーチの後継者が決まった時は、彼女を連れて独立すべきだとミルドレッドは考えた。



 イアンは簡単に、貴女は結婚しない兄ジャーヴィスの、妻の代わりに社交を担えばいいとは、言えなかった。



「今直ぐでは、ありません。
 まだ、わたし自身が学ばねばならないのです。
 まずはお料理を、ユリアナに習い始めました。
 最初は兄が好きな茹で玉子を習いました。
 最近は母が好きなアップルパイを。
 これがなかなか難しくて……」


 茹で玉子からのアップルパイは。
 どれだけ、いきなりレベルを上げたのか。
 料理初心者のミルドレッドを指導する、ユリアナの苦労が忍ばれた。


「順番にですけれど……ギャレット様のお好きな料理は何ですか?」



 それはいつか、俺の好物を作ってくれると言うことですか?


 逸る心を抑えて、イアンは好物を口にした。



 それを聞いて、しばらくミルドレッドは彼を見つめ。
 そして、微笑んだ。



「承知致しました。
 いつになるかは、まだ……自信がありませんので。
 今年もどうぞよろしくお願い致します」


 新年を祝う花火が、湖の方角で打ち上がっていた。

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