この悲しみも。……きっといつかは消える
 からかうように、エリンに言われたが、反発心は起きなかった。
 基本的にイアン・ギャレットは生意気な男だ。
 自分をあれこれ決めつけられるのを嫌うし、決して他人に本心を見せたこともない。

 それなのに、この女性には……
 気が付けば、全てを聞き出されてしまっていた。


 自分が社交界へ出たい理由。
 爵位を3年以内に手にしたいこと。
 ミルドレッドへの想い。
 スチュワートへの敬意と、それと共にある劣等感。


 
「先代様は、とても素晴らしい御方でしたと、わたくしも申し上げたでしょう?」

「えぇ……誰に聞いても、そんな方だったと」


 レナードへの譲位は完了し、今ではスチュワートは先代と呼ばれるようになっている。


「あのような御方は、ふたりとしていません。
 ですが、もうこの世にはおられないのです」

「……」

「ならば、この世であの御方のように、それ以上に。
 ミルドレッド様を幸せに出来るのは自分以外には居ないのだと、胸を張って言えるぐらいの自信を持てない方に、わたくしは協力等致しません」

「……それは、その……」

「まだそんな、気弱なお返事しか出来ませんの?
 どうなさるのですか、本気で爵位を取る気になっていますの?
 3年なんて、あっという間ですのよ!」

「します!します!必ず!
 この世で、ミルドレッド・マーチを幸せに出来るのは、俺しか居ない!」






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