この悲しみも。……きっといつかは消える
「サリーのことは今は話さなくていい。
 ミリーは嫌なんだ?」

「え、ええ……だってそんな、貴方はスチューの弟なのよ?
 兄弟でそんな……畜生と言うか、地獄としか……」

 
 本当は畜生とまで思ったわけではない。
 だが、それ程酷い話なのだとレナードに分かって貰いたかった。
 もし、リチャードから自分との再婚を後継の条件にされていたとしたら。
 ウィンガムとの繋がりを断ってはいけないからと無理強いをされているなら。


 それはレナードにとって、地獄だ。
 彼だって、そう感じているはずで。
 だけど、優しいひとだから、傷付けてしまうとわたしには自分からは言えなくて。
 本心では他に愛するひとが居るのに、兄の子供を妊娠したわたしを、娶りたくはないはずだから。


 未亡人のわたしなんかと無理に結婚しなくても、ウィンガムからはこれまでの協力体制を変えることはないと約束する。
 ミルドレッドはそう言葉を続けようとしたのだが。
 

「ふぅん?
 俺との再婚は、畜生で地獄か……」


 違う、地獄と言ったのは貴方との結婚のことじゃない。
 現在の貴方の心境がそうじゃないかと思っただけ。
 でも、ミルドレッドがそれを告げることはもう出来なかった。


 相変わらずレナードは薄く笑っていたが、正面から見ると右側の眉と口角が上がっていて。 

 ひどく歪んだ微笑みだった。


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