この悲しみも。……きっといつかは消える
 これからを考えて、イアンの額に汗が滲んだ。
 叙爵について、少し簡単に考えすぎていたかもしれない……


「ようこそ、魑魅魍魎の世界へ」


 エリンが、深紅に塗られた両の口角を持ち上げた。



     ◇◇◇



 ジャーヴィスが王都入りして夜会に参加するのは、毎年3回のみだ。

 シーズン始まりの4月に筆頭公爵家で開かれる国王陛下御来臨の大夜会に、夏に行われる王妃殿下主催の舞踏会。
 そしてシーズン終了の11月の納夜会だ。


 今シーズンの専らの話題は、エリン・マッカートニーがいつも同伴する平民の男のことだった。
 大いに見た目が良いので、当初はレディマッカートニーの年下の恋人かと思われていたが、彼等と言葉を交わした貴族達からは、あれは教育だと訂正が入り。

 今では自分も恋愛関係なしに、見込みの有りそうな平民男性を育ててみたいと、密かに相談し合う淑女達も増えたとか。


 元々その男、イアン・ギャレットのことを覚えている紳士達も多く。
 彼が全くの平民ではなかったことも、好意的に受け取られていた。
 また、そのように受け入れるしかなかったのである。


 ギャレットの後ろ楯はレディマッカートニーで、その後ろには王太子妃殿下が付いておられる。
 そんな男を社交界から閉め出すわけにはいかず。

 社交界はギャレットを受け入れた。

< 211 / 229 >

この作品をシェア

pagetop