この悲しみも。……きっといつかは消える

第56話

「イッ、アーン、さまーっ!」

 新緑のウィンガムの丘を、メラニーが駆け下りてくる。
 手を大きく振るその姿が目に入り、イアンは跨がっていた愛馬から降りた。
 彼ひとりがマーチ邸を訪れる時は王都から騎馬で来ることが、お馴染みになっている。



「あぁ、メル、そんなに勢い付けて走ったら、転ぶぞ。
 また背が伸びた?」

「はい!この前より3センチ伸びました!
 今日お出でになると、ミリーお姉様から聞いて。
 わたしが1番に、お祝いを言いたくて待ってました!」


 イアンが約5ヶ月振りに会った6歳のメラニー・フェルドンは、もう自分のことをメルとは言わなくなっている。
 彼女は今では、ミルドレッドのことを『ミリーお姉様』、ジャーヴィスのことは『おぉじちゃま』ではなく『ヴィス様』と呼ぶようになっていた。 


 その変化を、ジャーヴィスは『ヴィスおじ様』と呼んでくれない彼女に、「もう、俺はおじ様以下の存在か」と淋しく思っていて、王子様への6歳の少女の淡い憧れには全く気付いていなかった。



「男爵様になったんですよね。
 おめでとうございます!」

「ありがとう……それでさっきイアン様なんて言ってたの?
 君も大人になったね」


 年末には『イアン兄たん』だったのに。
 あぁ、あの呼び名が懐かしい……


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