この悲しみも。……きっといつかは消える
第8話
それは少しの間だったかもしれないが、ミルドレッドを震え上がらせるには充分な間だった。
生まれて初めて男性を本気で怒らせたことに、ようやく彼女は気付いた。
彼女の言い訳など、彼は拒否するだろうと分かった。
「ミルドレッド・マーチ。
お前は自分だけが被害者だと思っているんじゃないか?」
普段呼ぶミリーではなく、ミルドレッドと。
アダムスではなく、旧姓のマーチと。
叔父のリチャードのように大声を出しているわけでもないのに、レナードの静かな物言いが怖かった。
お前なんて、スチュワートは勿論、義理の父や実家の父からも兄からも。
あの尊大なリチャードからさえも、言われたことはなかった。
お嬢様育ちのミルドレッドにとっては、もうそれだけで頭を殴られたほどの衝撃だ。
「……あ、あの……」
「一番の被害者はな、俺の妻になるはずだったサリーなんだよ。
お前は前と変わらず、領主の妻で伯爵夫人だが、サリーは妻だと呼ばれなくなった。
これからは、領主の愛人だ、妾だ、と後ろ指を指される。
その辛さがお前に分かるのか?」
「だっ、だから……わたしは貴方は……サリー様と結ばれるべきだと……」
生まれて初めて男性を本気で怒らせたことに、ようやく彼女は気付いた。
彼女の言い訳など、彼は拒否するだろうと分かった。
「ミルドレッド・マーチ。
お前は自分だけが被害者だと思っているんじゃないか?」
普段呼ぶミリーではなく、ミルドレッドと。
アダムスではなく、旧姓のマーチと。
叔父のリチャードのように大声を出しているわけでもないのに、レナードの静かな物言いが怖かった。
お前なんて、スチュワートは勿論、義理の父や実家の父からも兄からも。
あの尊大なリチャードからさえも、言われたことはなかった。
お嬢様育ちのミルドレッドにとっては、もうそれだけで頭を殴られたほどの衝撃だ。
「……あ、あの……」
「一番の被害者はな、俺の妻になるはずだったサリーなんだよ。
お前は前と変わらず、領主の妻で伯爵夫人だが、サリーは妻だと呼ばれなくなった。
これからは、領主の愛人だ、妾だ、と後ろ指を指される。
その辛さがお前に分かるのか?」
「だっ、だから……わたしは貴方は……サリー様と結ばれるべきだと……」