この悲しみも。……きっといつかは消える
 何だか嬉しくて、つい余計なことまで話してしまうメラニーだ。
 ミリーお姉様から学ぶレディとしての嗜みは、今は彼女の頭の中から消えているようだ。



「何の特訓を受けてるの?
 アップルパイは攻略出来たように、手紙には書かれていたけど?」


 怖いエリンが居ないと、つい未だに『けど』と言ってしまうイアンだが、最近ではミルドレッドと頻繁に手紙のやり取りしていた。


「本番は半年後くらいじゃないかな……」


 半年後とは、秋か冬のことか。
 彼女は、メラニーの誕生日ケーキを作る気なのかもしれない。
 俺はその時には、ここに来れるのだろうか。
 イアンの心中を、苦いものが浸していく。
 ミルドレッドに今日断られたら、もう二度と会わないつもりだ。



 そこまで話して、自分がしゃべり過ぎてしまったことに、ようやく気が付いたメラニーは、イアンの前から撤収することにして。
 今度はマーチ邸に帰る為、丘を駆け上がった。


「邸まで、前に乗っていきな」と馬に乗せてくれると言うイアンの言葉には、激しく心を惹かれるが。

「後は、自分で聞いてくださーい」の言葉を残して。



     ◇◇◇


    
 兄からイアンの気持ちを聞かされてから。
 ミルドレッドは何度も何度も考えた。


 心の中には未だに、スチュワートが居るが。
 今、側に居てくれるのは、イアンだ。
 彼からのプロポーズを断れば、イアンならもう二度と会いに来ることはないだろう。
 今では年越しの恒例になってしまった花火を見ながらの彼との語らいも、もう今年から無くなってしまうのだ。


< 221 / 229 >

この作品をシェア

pagetop