この悲しみも。……きっといつかは消える
 それを捨て台詞に、レナードは出ていった。
 思い切りドアを閉められて、その物音に身体が震えた。 

 手は出されなかったけれど、心は滅多打ちにされた。



 兄弟間で妻を共有することを、畜生と言ったから?
 同性愛者の兄ジャーヴィスを、畜生と返された。
 そして自分の兄であるスチュワートのことも、甘ちゃんと言った。



 自分の無自覚な暴言が、レナードの怒りを招いてしまったことにやっと気付けたけれど。
 考えなしなわたしを、馬鹿にして軽蔑するのは構わない……けれど。


 夫と兄に対する、彼の言葉は許せないと思った。


 わたしはレナード・アダムスを絶対に許さない。

 ミルドレッドは固く誓った。



    ◇◇◇



 ミルドレッドが兄ジャーヴィスから、恋人の名前を知らされたのは。
 
 スチュワートと再会する前のことだ。
 今から5年前、父アイヴァンが亡くなって、ジャーヴィスが後を継ぐ手続きをしている最中だった。

 兄の様子がおかしいことは、母も気付いていた。


「責任感からかしら?
 あまり眠れていないんじゃないかしら?」


 ジャーヴィスは幼い頃から何でも出来る自慢の兄だった。
 容姿も良いので、8歳離れたミルドレッドの友人達からも人気があった。
 
 高等学院を卒業するまで、兄には恋人も居ないようだった。
 これから青年伯爵となり、増え続けるヴィスへの釣書を捌くのは大変になるわねと、母と家令のホールデンが話していた。
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