この悲しみも。……きっといつかは消える
 そんなある日、夕食前にミルドレッドは母の私室に呼ばれた。
 部屋にはジャーヴィスも居た。
 なんだか、より一層やつれて見えた。 

 ヴィス兄様は病気にでも罹ったの?とミルドレッドは心配になった。



 そして告白されたのだ。


「高等学院で、僕は彼に出会ってしまった。
 フェルナンしか要らない、結婚はしない、子供も作らない。
 だから、僕はウィンガム伯爵にはなれない。
 ミリーに婿を取って、この家を継いで欲しい」




 ミルドレッドは高等学院の寮に居るスチュワートに手紙を書いた。
 幼い頃に王命で結ばれた婚約者とは、ほとんど会っていない。


 彼に手紙を出すのも、彼から届くのも。
 お互いの誕生日だったり……特に意味のない日常も書いたかも知れないが、愛の言葉など皆無の手紙を何回かやり取りした、それくらいだ。


 だから簡単だと思っていた。


 わたしはスチュワート様とは、結婚出来なくなりました。
 もしウィンガムとの繋がりが必要ならば。
 差し支えが無いなら、レナード様をわたしのお婿さんにしてください。
 


 そんな内容の手紙を書いた。
 簡単に書いたが、読み返して捨てた。
 それを何枚も書いて、何枚も捨てて。
 結局は……


 ごめんなさい。
 貴方の妻にはなれません。
 直に母からレイウッド伯爵様へ連絡が入るでしょう。


 それだけを書いた。

 生まれて初めて、手紙で早馬を使った。
 贅沢だと母も兄も、ミルドレッドを叱らなかった。


 すると、その週末にウィンガムにスチュワートが現れた。


 両親は、今日私がここに来たことを知りません。
 まだレイウッドには、解消すると知らせていませんね?

 母に会うなり、彼は早口で確認してきた。



 王都からウィンガムまでの街道を2日掛けて。
 馬を2頭乗り換えて駆けてきた彼からは、汗と泥の匂いがした。

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