この悲しみも。……きっといつかは消える

第10話

 地方行政査察官ベネディクト・シールズの元には、今日で3日連続ウィンガム領主のジャーヴィス・マーチから面会願が出ていた。


 彼の用件は分かっている。
 先週妻のレイラから、散歩中のレイウッド伯爵夫人と会い、まだ本人には伏せておくことになっていた再婚話をしてしまったと打ち明けられていたからだ。

 妹から連絡を受けて、直接に話を聞きたいと来ているのだ。
 伯爵夫人の実家とは言え、彼女はレイウッドの人間だ。
 王家からの王命は、ウィンガムには届かない。



 レイラがそんな後先考えずにミルドレッド本人に話すとは思っていなかったが、どこかでそれを想定していた自分を否定出来ない。


 妻は若くて美しいレイウッド伯爵夫妻を、悲恋小説の主人公達のように見ていた。
 領民を助けようとして亡くなったヒーローの伯爵に涙して、子供まで失ってしまったヒロインの伯爵夫人には、まるで旧知の友人であるかのように同情して、自分まで落ち込んでいたからだ。
 だからと言って……


 元々は妻に話してしまった自分が悪いのは分かっている。
 直接中央へ直訴されたら、お咎めはあるだろう。
 だが、それよりも先に何かしらレイラには処罰を与えねば、アダムス子爵は黙っていない。


 それで、早々に妻を王都の実家へ送った。
 表向きは彼女が体調を崩したことにして、期限は決めていなかったが。
 ここ西部地域の勤務が終わるまで、迎えに行く気はない。
 少なくとも後1年は息子達に会えなくて、彼女は軽はずみなことをしたと後悔するだろう。


 
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