この悲しみも。……きっといつかは消える
 レナードに軽蔑されたまま。
 このまま馬鹿なわたしでいるわけにはいかない。
 例え、名前だけの伯爵夫人であろうと。
 わたしはもっと、ちゃんと学ばなければならない。


 今のわたしにあるのは家柄だけでも。
 これからは、立場に相応しい人間になる。
 その為にも、スチュワートの為にも。
 わたしは学ばなければならない。
 これからは、レナードの妻ではなく、当主夫人として生きる。
 あの日、リチャードから言われた言葉を胸に刻んで生きていく。



『これからはスチュワートの妻よりも、レイウッド伯爵家の当主夫人として、己の立場を考えた言動を心掛けろ』
 

 
 ミルドレッドはそう決意して。
 夫の補佐役だったカールトンや家令のハモンドに自分から声を掛けて、教えを乞うた。


 その行為がまた、レナードを不機嫌にさせていることにも気付いていないミルドレッドだった。



     ◇◇◇



 月が替わると、自分からは謝れないレナードは、恋人のサリー・グレイを邸に呼んだ。
 まだ譲位は完了していなかったので当主の部屋は使えず、彼の私室でふたりは過ごしていた。


 彼はいつの間にか新聞社も辞めていて、譲位まで特にする仕事もないのか、毎日昼過ぎまでサリーと起きて来なかった。
 ふたりがもつれ合いながら邸内や庭園で時を過ごしているのを時折見掛けたが、ミルドレッドには関係の無いことなので、彼女は何の反応も見せなかった。


 レナードの隠された本心を知りようもないミルドレッドには、自分に見せつけるようにサリーといちゃつく彼の行動は理解出来ない。


 
 次期伯爵には相応しくないレナードの爛れた生活行動を、補佐役のカールトンが注意したが、彼は聞く耳を持たなかった。
 とうとう叔父のアダムス子爵からも叱られたが、レナードは聞き流す素振りを見せた。


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