この悲しみも。……きっといつかは消える
 カールトンやリチャードには、そのあまりにも子供っぽいレナードのやり方は、恋愛の駆け引きを知らないミルドレッドには却って悪手だとしか思えなかったから、具体的に注意や叱言を与えていた。


「スチュワートは、ミルドレッドには言葉を惜しまなかった。
 プライドなんか捨てて、自分から話しかけないと」

「ミルドレッドは甘えたい女だ。
 冷たくしたら離れていくだけだ」


 彼等の言葉はレナードの耳には届いていたが、彼はそれを己の言動に移すことが出来ないまま。
 時が経つにつれて、レナードとミルドレッドの間の距離と溝は、広がり深くなっていた。



 アダムス邸はスチュワートが居た頃とは、まるで雰囲気は変わってしまった。
 最初は遠慮がちだったサリーも態度が大きくなっていた。
 事前の約束も無しに彼女の家族や友人が遊びに来るようになった。
 それをレナードは勿論、ミルドレッドも咎めない。


 いつもは邪魔としか思えないリチャード・アダムスが、こんな時に現れて。
 どうして『あの女』を、早々に追っ払わないのかとアダムス家の使用人達は苦々しく思っていた。


 明るくて、使用人にも優しかったレイウッドの次男坊は、亡くなった旦那様と比べると、なんて愚かな男なんだと皆が思い始めていた。



 だから、幼い女児を連れたその女がアダムス家の正門の前に立った時も。

 門番は、また『あの女』の知り合いだろうと思った。
 暗い色味の服を着た、小さな女児を連れた女で、顔立ちは悪くないが見るからに疲れた感じの平民の女だ。

 門番は、女がトランクを下げていたから、ここで泊まるつもりかと忌々しく思い、それなら『あの女』の実家へ行けよ、とも思った。


 ここら辺りでは見掛けない女だったが、彼は深く考えずに。

 レイウッド伯爵家の門を開いた。

< 36 / 229 >

この作品をシェア

pagetop