この悲しみも。……きっといつかは消える
第14話
スチュワートは、実の母のことは余り話さなかった。
1歳になる前に、離縁された母親だ。
「あのひとの思い出なんて、何もないよ。
俺にとっては、母親はジュリア・アダムスだから」
その言葉の通り、彼が「母上」と呼び掛ける継母のジュリアとの関係は、本当に円満だった。
ジュリアは精神的に落ち着いた、暖かな母性を持った人で、実子のレナードと同様に継子スチュワートにも愛情を注いだ。
そして嫁のミルドレッドにも優しかった。
スチュワート自身にも実母メラニーの記憶はないし、離婚の際に使用人達も全員入れ換えたので、彼に母のことを教える人間もいなかったと聞いた。
だから現在この家を支えている家令のハモンドにしろ、侍女長のケイトにしろ、メラニーのことは何も知らないらしい。
「奥様、お待たせ致しました」
慌ててやって来たハモンドが頭を下げた。
仕事を途中で切り上げて来てくれたのだろうか。
それを申し訳なく思うが、ひとりでは対応出来ないと思った。
ハモンドが来てくれたので、少し落ち着いた。
「貴方には先に伝えておくわね。
連れてきた女の子の名前は、メラニーと言うそうなの。
この名前だけはご存知でしょう?
旦那様のお母様のお名前よ」
「……左様でございますか」
「もし……カールトン様か叔父様を呼びに行く事態になっても、この事は先にお伝えしておいてちょうだい」
彼等にも、先に教えていた方が驚きも少ないと思った。
ミルドレッドは招いてもいない来客に、こちらの動揺は見せたくなかった。
……そこにつけこまれそうな気がしたからだ。
1歳になる前に、離縁された母親だ。
「あのひとの思い出なんて、何もないよ。
俺にとっては、母親はジュリア・アダムスだから」
その言葉の通り、彼が「母上」と呼び掛ける継母のジュリアとの関係は、本当に円満だった。
ジュリアは精神的に落ち着いた、暖かな母性を持った人で、実子のレナードと同様に継子スチュワートにも愛情を注いだ。
そして嫁のミルドレッドにも優しかった。
スチュワート自身にも実母メラニーの記憶はないし、離婚の際に使用人達も全員入れ換えたので、彼に母のことを教える人間もいなかったと聞いた。
だから現在この家を支えている家令のハモンドにしろ、侍女長のケイトにしろ、メラニーのことは何も知らないらしい。
「奥様、お待たせ致しました」
慌ててやって来たハモンドが頭を下げた。
仕事を途中で切り上げて来てくれたのだろうか。
それを申し訳なく思うが、ひとりでは対応出来ないと思った。
ハモンドが来てくれたので、少し落ち着いた。
「貴方には先に伝えておくわね。
連れてきた女の子の名前は、メラニーと言うそうなの。
この名前だけはご存知でしょう?
旦那様のお母様のお名前よ」
「……左様でございますか」
「もし……カールトン様か叔父様を呼びに行く事態になっても、この事は先にお伝えしておいてちょうだい」
彼等にも、先に教えていた方が驚きも少ないと思った。
ミルドレッドは招いてもいない来客に、こちらの動揺は見せたくなかった。
……そこにつけこまれそうな気がしたからだ。