この悲しみも。……きっといつかは消える
 ミルドレッドの中では、まだ会ってもいない、その女性はすでに仮想敵になっていた。



 気を引き締めて、ドアをノックする。
 返事は聞こえなかったが、構わず扉を開いた。


 そこには待ち疲れてしまったのか、母親の膝の上に頭を乗せて眠る金髪の幼女と。
 ミルドレッドが想像していたより貧しい格好をしていたが、黒髪の美しい女性が居た。



 ミルドレッドは震える指先を、悟られないように握り締めた。
 スチュワートと同じ髪色の子供を連れて彼を訪ねて来た女に、値踏みをされているように思えて、いつもよりゆっくりとした動作で、正面のソファに座った。
 そして目元に力を込めて、艶やかに微笑んで見せた。


「初めまして、フェルドン様。
 わたくしはスチュワート・アダムス・レイウッドの妻のミルドレッドと申します。
 お聞きになったでしょうが、夫は2ヶ月前に事故で亡くなりました。
 わたくしで良ければ亡きスチュワートに代わって、お話を伺いますわ」


 大人げないかも知れないが、妻、夫と。
 わざと強調して話した。


 ミルドレッドは幼い頃から、容姿だけは褒められてきた。
 普段はそれを特に意識することはなかったが、今だけは。
 目の前の女も美しいけれど、今この時だけは。
 わたしは彼女より綺麗に見えますように、と切実に願った。
 

 その意気込みが女に伝わったのだろうか。
 彼女は一瞬視線を逸らして、少したじろいだように見えたが。
 再び真正面からミルドレッドを見つめて、彼女と同じ様に微笑んだ。
< 41 / 229 >

この作品をシェア

pagetop