この悲しみも。……きっといつかは消える
「……奥様はあの子が本当に、旦那様のお子様だと?」



 そのハモンドの質問に、壁に凭れかけていた身体を起こして、ミルドレッドは呟いた。


「その真贋は、カールトン様か子爵様に任せるわ。
 レイウッドで解決して。
 わたしはこの邸を、これから出ていきます。
 誰が何と言おうと」


 それは独り言のようにも聞こえたが、ハモンドはそれをミルドレッドの決意表明だと受け取った。


 あれほど、当主夫人に相応しくなろうと。
 まるで生まれ変わったかのように、必要な知識を学ぼうと努力されていた奥様が、その熱意を失われた。


 愛の無い政略婚を。
 レナードの愛人を。
 受け入れようとした。


 だが、スチュワートの愛人は。
 そっくりな娘は。
 受け入れられない。



 己の娘よりも年若いミルドレッドを私室に閉じ込めて、この邸に留めることは簡単だ。
 だが、ハモンドはそうしなかった。


 王命が取り消されない限り、ミルドレッド・アダムスの生きる場所はレイウッド伯爵家だ。
 スチュワートの過去も、レナードの現状も、全てを飲み込んで受け入れるしかない。

 そんな彼女が哀れに思えた。
 少しの間くらい、ここから逃がしてあげたくなった。
 それで、聞こえなかった振りをして。


「アダムス子爵邸に、明日の朝連絡を入れます」と告げた。
 彼等がここへ来る前に、彼女がここから逃げ出せるように。



 後にアダムス家に忠実な家令ハモンドは、この時の感傷を生涯悔やむことになる。



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