この悲しみも。……きっといつかは消える
 ミルドレッドはハモンドと別れると急いで私室に戻り、実家から持ってきていた自分ひとりでも着付けられる丈が短めの旅行用ドレスに着替えた。
 この家で自分に用意された物は、何ひとつ身につけたくなかった。


 着替え終わると、今度は小さなトランクに私物も詰めた。
 これもまた、結婚前から大切にしていた物だ。

 そして部屋続きの夫婦の寝室に入った。
 スチュワートと眠っていたベッドは、今はもう見たくもなかったが、サイドテーブルの上に積み上げていた何冊かの本をまとめて、それもトランクに放り込んだ。


 他に忘れ物が無いか、周りを見渡していると。
 私室の方のドアがノックされた。


 慌てたように何度も繰り返される強めのノックは、あの日の朝を思い出させたが、その想いを振り切って。
 寝室から移動したミルドレッドは、無言でドアを開けた。


 思っていた通り、そこに立っていたのは顔を歪ませたレナードだった。
 余程慌てて階段を駆け上がったのか、息も荒い。


「ミ、ミリー……その格好……」

「どうぞ」


 あの口論から1ヶ月ぶりに、ミリーと呼び掛けてきたレナードと言葉を交わすことになった。
 絶対に個室では夫以外の男性とふたりきりにならなかったミルドレッドが、彼を部屋に招き入れたのは。

 彼から少し遅れて向かってくるサリーの姿が見えたからだ。
 レナードとサリーのふたりを私室に招いたミルドレッドだった。

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