この悲しみも。……きっといつかは消える
「そうねぇ、見えないわ。
 わたしはとても楽しいけど」

「……もうひとりにしてくださる?
 荷造りが終わっていないの」


 サリーとの不毛な会話を終わらせたくて、ミルドレッドは背を向けた。
 彼女はもうミルドレッドに対して、丁寧な物言いも止めたようだ。



「ねぇ、1日だってここに居たくないんでしょう?
 1時間待ってくれたら、ウィンガムまで夜でも走ってくれる馬車を、裏門に用意出来るけど?」


 その言葉にミルドレッドは、思わず振り向いた。
 それがサリーの思惑に乗せられることなのは、承知している。

 それでも振り向いてしまったのは、明日ならウィンガムまでの馬車を出すと言ったレナードだったが、一晩立てば彼の気持ちは変わって拒否されるかもしれない。
 それに加えて、アダムス子爵家のふたりが来てしまえば、絶対にウィンガムへは帰れないと考えたからだ。


「安心して? ちゃんとした馬車を用意するから。
 だって貴族の貴女に何か仕掛けたら、平民のわたしなんか拷問されて、家族全員が処刑されるわ」

「貴女が協力してくれるのは、わたしを早くここから追い出したいから?」

「……そうねぇ、レンは迎えに行くつもりみたいだけれどね。
 どうにかして、ここへ戻らないように手を打ってよ。
 だって貴女は、疫病神だもの」
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