この悲しみも。……きっといつかは消える
「……」

「自分でも分かるでしょ、貴女がスチュワート様と結婚してから、アダムス家の人間が次々に死んでるのよ?
 1年前にはご両親、そしてスチュワート様、それに赤ちゃんもね。
 とうとう自分の赤ちゃんまでよ?
 4人も殺しちゃった貴女は疫病神としか考えられないわ」



 お腹の中の子供を、自分が殺したのだと。

 初めて自分以外の人間から指摘された。



「これ以上、貴女の被害者は出したくないの。
 絶対にレンは、死なせない。
 どうしても次の被害者が必要なら、貴女の愛するスチュワート様が、貴女と結婚する前に本当に愛した女と娘にしてよ」


 疫病神と言われて、何か言い返したかった。
 義理の両親は流行り病で病死。
 夫は天災による事故死。

 そして、わたしの赤ちゃんは……



「……分かったわ、わたしは2度とレイウッドには戻らない。
 だから、馬車をお願い……します」



 ミルドレッドは生まれて初めて、大嫌いな相手に頭を下げた。


 大嫌いな相手……サリーが足取り軽く部屋を出て行った。


 扉が閉まったので、ミルドレッドは手持ちの小さなバッグに、切れ味を試したペーパーナイフを忍ばせた。


 少しだけ気持ちが落ち着いたので、ソファに身を沈めた。

 そして、血が滲んだ左手親指の腹を眺めた。

 

 これで、何かあれば。
 戦うことは出来ないけれど、自分の首くらいは切れる。

 
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