この悲しみも。……きっといつかは消える
「前にも話したと思うけど、わたしとレンは彼が17の時からの付き合いなの。
 それなのに後から来た貴女が妻で、わたしが愛人なんてねぇ?」

「はいはい、それは何度も聞いたわ。
 急ぐから、手を離してくださる?」

「道中は長いのよ、思い出す時間はたっぷりあるから。
 貴女の時間潰しの助けになれば良いと思って」

「……」


 早く出発しないと、ユリアナが部屋に戻ってきてしまう。
 ここでサリーと言い争うことになれば、誰かに気付かれてしまう。
 面倒だがサリーが何か言いたいのなら、言わせるしかないとミルドレッドは、聞き流すことにした。


 どうせ、いつもと同じ様な話を聞かされるだけだ。
 レナードは、知らなかっただろうけれど。
 彼が居なくてカールトンが来ない日等には、サリーはよく執務室へとやって来ていた。


 そして、返事も相槌もしないミルドレッド相手に一方的におしゃべりを聞かせ、満足すると出ていく。
 それを何度かされたミルドレッドは、最後にまたレナードとの色事を聞かされるのかと思っていたのだが。


「あの子、3歳くらいなんですって?
 厨房で夕食の献立の相談をしているのを聞いたわ。
 ……ねぇ、スチュワート様はいつから、その母親と付き合っていたのだと思う?」

「何が言いたいの!」


 レナードの話なら、いつも聞き流されていたのに。
 ミルドレッドが激しく反応したことで、サリーは嬉しくなった。

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