この悲しみも。……きっといつかは消える
「ウィンガムへの馬車の中でゆっくり思い出してみてよ。
 結婚するまでのスチュワート様のこと。
 少しも気が付かなかったの?
 死ぬまでずっと、女を囲っていたのよ? 
 余程、スチュワート様は貴女を騙すのがお上手だったのねぇ。
 ……だからねぇ、結局また貴女は後からの女なの。
 結婚前からじゃなくて、もしかしたら婚約する前からの恋人だったのに、その女もまた愛人にされたの。
 あんたが後から来たせいでね!」



     ◇◇◇
  


 ジャーヴィスが母のキャサリンと朝食を摂っていると、家令のホールデンがブレックファストルームに入ってきた。

 朝食会場のここには給仕やメイドは出入りするが、用事がない限りホールデンが来ることはない。
 いつもなら落ち着いている彼の慌てた様子に、ジャーヴィスは茹で玉子の殻をスプーンの底で割っていた手を止めた。


「どうした?」

「ミルドレッド様がお戻りになりました」

「は?どう言うことだ?」

「貸馬車で、レイウッドから夜通し駆けてこられたようで、今はグレイトルームの暖炉の前でお休みになっておられます」

「貸馬車?
 アダムスの馬車じゃないのか?」


 立ち上がったジャーヴィスは珍しく感情を露にして、ナプキンをテーブルに叩きつけ。
 母が傍に居たことを思い出し、女性の前で失礼な真似をしてしまったことを直ぐに詫びた。


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