この悲しみも。……きっといつかは消える
 けれど……アダムス子爵の名前を出された。
 スチュワートの叔父で、カールトンの父のリチャード・アダムスがこれから来ると聞かされたら、そんな意地は張れなくなった。


 リチャードは押しの強い人物で、脅すように大きな声で話す。
 9ヶ月前にスチュワートの両親の前レイウッド伯爵夫妻が流行り病で続けて亡くなってからは、領主となった甥のスチュワートを若造扱いしてあれこれ指図しようとしてくるので、ミルドレッドは苦手だった。


 本家の領主が行方不明となったのだ。
 叔父であり、政治的補佐役のリチャードが駆けつけるのは当たり前のことだ。
 彼の息子のカールトンがついていながらの事態に、叔父はどう対処するつもりか。
 息子の不始末だと詫びるような人物ではない。



 義理の父母が亡き今。
 ここにリチャードを止められるひとは居ない。


 ミルドレッドは己の下腹部に手を当てた。
 まだそれほど膨らんではいないが、夫がよくそうしていたように。


 赤ちゃん、あなたのお父様を、お母様の元に帰してね。



 スチュワートが居ない今。
 ミルドレッドが頼りに出来るのは、もうこの子しか居ないように思われた。
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