この悲しみも。……きっといつかは消える

第21話

 ミルドレッドは、一晩駆けて実家へ戻ってきた。
 丁度朝食の時間だと分かっていたが、先ずは冷えた身体を暖めたくて、暖炉に当たりに行った。

 彼女は、サリーが用意した貸馬車内の誰が使用したかも分からない膝掛けを、使う気にはなれなかった。
 そして、いよいよの時には、直ぐに取り出せるように、右手をバッグの中に入れたままにして。
 ペーパーナイフを握り締めていた。




 お気に入りだった長椅子はそのままそこにあった。 
 一晩中続いた寒さと緊張感で、身体中が軋んでいる。
 思わず横たわると、もう動けなくなった。



 食事を途中で切り上げて来てくれたのだろう。
 兄に頭を撫でられて、母に手を握って貰うと、心の強張りが崩れていった。
 そして眠ることが出来た。
 スチュワートが亡くなった、あの日以来の深い眠りだった。



     ◇◇◇



 目覚めると、自分の部屋だった。
 兄が連れてきてくれたのだろうか。

 ミルドレッドは起きて呼び鈴を鳴らさずに、サイドテーブルに用意されていた水差しで手拭いを濡らし、簡単に顔を拭いた。
 
 そしてドレッシングルームに移り、皺だらけになった旅行用のドレスを脱ぎ、身体を締め付けない厚手のワンピースに着替えた。
 結い上げていた髪を手解き、姿見で見るとレイウッドに居た時よりも若く見える自分が映っていた。

 今日はもうお化粧もしない、怠け者になると決めて、ヒールの低い靴を履き、彼女は部屋を出た。

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