この悲しみも。……きっといつかは消える
 スチュワートが家賃を出した家を、彼が寛げるように調えて。
 彼が手渡していた生活費から、彼の好物を作り。
 束の間でも、領主の重責から離れることが出来た彼を癒して。
 ……そして。


 
 考えれば考えるほど、深い闇に落ちていくだけなのに。
 ミルドレッドは考えて想像して、自分を傷付けた。

 



 食事を終えたミルドレッドは、執務室にジャーヴィスを訪ねた。
 特に予定がない限り、この時間は執務室に居るからだ。

 重厚な扉をノックして名前を告げると、直ぐに本人が開けてくれて、抱き締められた。


「気分はどう?」

「お腹が空いたので、エイミーに頼んで。
 サンドイッチを作って貰いました」


 エイミーの名前にジャーヴィスが首を傾げたので、キッチンメイドだと伝えると。
 エイミー・ブラウンのことだなと、返事があった。

 厨房の下働きの使用人の名前まで把握しているのが、当主として普通なのか分からなかったけれど。
 兄と自分は意識が全然違うのだと、ここでも思い知らされた。


 
 スチュワートの妻として、何も出来なかった。
 当主夫人として、何もかも放り出してきた。




「レナードとアダムス子爵から手紙を受け取った。
 既にミリーから事情を聞いていて、誤魔化せないと判断したのだろうね。
 帰ってきた理由はそれで分かったから、辛いのなら話さなくてもいい」

「では、この先の希望を話してもいいですか?」

「……勿論、あるなら是非聞かせて欲しいよ」

「わたしを死んだことにして、この家から出してください」

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