この悲しみも。……きっといつかは消える
 イアンはそう真面目な顔で話しながら、ジャーヴィスが妹を置いていったのは当たり前だなと、つくづく思った。
 髪を下ろしているミルドレッドは、嫁入り前の乙女に見えた。
 あんな思春期の男どもの巣窟に、この女性を連れては行けない。


 でもそのお陰で、先に会えた。
 後から知った時のジャーヴィスの悔しそうな顔を思い浮かべて、おかしくなったが。
 彼はそんな感情を隠すのに長けていた。



「レイウッド伯爵夫人も。
 もしかして、貴女も貴族名鑑を読んでいらしたのですか?」


 このコンサバトリーに案内されて、まず目についたのは少し離れたサイドテーブルの上に置かれていた貴族名鑑だった。


 髪を下ろしたままのミルドレッドは、ずっとこの部屋に居たのだろう、と思った。



「はい、兄から目を通しておくように、と。
 最近はこればかり読んでいます。
 それと、申し訳ございませんが、わたくしのことはアダムスと呼んでいただけましたら」

「承知致しました、アダムス夫人。
 こちらの名鑑から何かお気づきになった点はありましたか?」

「先ずはアダムスとマーチの代々のご先祖に注目するように兄に言われて、アダムスではウィラードの名が最近は居ないと気付きました。
 それから同時代の一族の男性の生年と享年を、と言うのでメモを取りましたら……」


 そこでミリウッドは立ち上がり、名鑑に挟んでいたメモを手にした。


「きっと兄と、ギャレット様は既にお気付きのことでしょうね。
 ここに記されている夫の曽祖父エルネスト様と、お兄様のウィラード様の生年が同じだと。
 おふたりは双子でしたのね」

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