この悲しみも。……きっといつかは消える
 ミルドレッドの世代にとっては、先の戦争は終戦がいつだったかはっきりと覚えていない、遥か昔の歴史でしかない。


「戦死ではないのですか?
 でも、他のアダムス一門の男性達も多くの人が、ウィラード様と同じ年に亡くなっています。
 同様に戦死したのだと思い込んでしまいました。
 だったら、この人数は……」

「お兄様は生年と享年をご覧なさいと仰ったのでしょう?
 普通では戦争には行かないような年齢の人間が亡くなっていますよ」

「……」

「老人も少年もです。
 高等学院に入学する12歳以上は、成人男性と同じ扱いになります」
 
「……もう一度、見直してみます。
 今度は、死亡時のそれぞれの年齢も」



 安易に答えを求めない、意外に負けず嫌いな一面を覗かせたミルドレッドに、イアンは笑顔を見せた。



「私は一旦、仕事に戻ります。
 急にお邪魔して、申し訳ありませんでした。
 今夜のディナーを楽しみにしています」


 急に暇を告げられて、ようやくイアンから用件を聞いていないことに、ミルドレッドは気付いた。


「あの、ギャレット様のご用事は何だったのでしょう?」

「……用事と言うか、確認です。
 貴女のお兄様からアダムス夫人も調査に加わるとお聞きして。
 どれ程のご覚悟で、王都まで来られているのかと」

「……」

「もし貴女が、私達にただ付いてくるだけなら。
 ご自分では何も考えず、ただこちらに任せればよいと、お考えになっているのなら。
 頼まれていた調査結果を渡して、ここから先は私は手を引きますと、ジャーヴィス先輩にお伝えしようと思っていて、今夜のディナーもお断りするつもりでした。
 ご馳走になってからだと、お断りはしにくいですからね」

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