この悲しみも。……きっといつかは消える
 加えて、まるでミルドレッドの瞳に合わせたかのように、イアンが胸に緑のチーフを差しているのが気に入らない。
 それだけじゃない、この図々しい男は。
 夫を失ってから三月しか経っていない妹に、渡した薔薇の中から一輪、自分にも挿してくれとねだっている。


 ジャーヴィスは、言われるままに素直に薔薇を挿そうとしているミルドレッドの手からそれを取り上げて、代わりにこの舐めた真似をする後輩の左襟のフラワーホールに挿した。
 それをまた面白がっているイアンが、ますます気に入らない。




 18時過ぎに出先から戻ると、タッカーからイアンが来たことを聞かされ、その相手をミルドレッドがしていたことを知った。
 それでミルドレッドに話を聞く前に、彼女の侍女に様子を尋ねたのだが。


「おふたりはコンサバトリーでお話をされていて、わたくしはお茶を出した後は下がりました。
 扉は開けておられましたが、何を話されていたかは存じ上げておりません」


 ルーシーは主に尋ねられたことは正直に答えたが、イアンに会ったミルドレッドが髪をおろしていたことは言わなかった。
 燃ゆる火に油を注ぐ結果になるだけなのは、分かっている。


 先触れも無しにイアンがやって来て、1時間もしない内に帰ったことはタッカーから聞いている。
 そんな短時間で口説いたとは思えないが、あいつは何をしに来たんだ?
 これからはひとりで留守番はさせられないな、と思いながらジャーヴィスは、ミルドレッドの部屋を訪れたのだが。
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