この悲しみも。……きっといつかは消える
 彼女はメイド達の手を借りながら、既にディナーの着替えの支度に入っているから、とルーシーから止められてしまい、ちゃんと話を聞くことが出来ていなかった。


 それで、これだ。
 やはり、ミルドレッドはウィンガムに置いてくるべきだった。
 実家のお嬢様暮らしから、夫に囲われるようにして生きてきた妹は、男に対して警戒心が無さ過ぎる。
 特にイアンのような口八丁手八丁の輩には。



     ◇◇◇



 ディナーは特に問題なく済んだ。
 給仕やメイドが周囲で動く場での話題は、ジャーヴィスとイアンの学生時代の話だったり、現在の王都の様子だったりした。


 そんな風に和やかに食事が終わり、3人は社交室へと移動した。
 食後は煙草とブランデーやカードを必要とする男性は多いが、ジャーヴィスもイアンもそのタイプではなく、男性同士の交流手段として嗜む程度だった。


 ミルドレッドは、そこに例の貴族名鑑を持ち込んだ。
 イアンが帰ってから、もう一度見直して判明したことがあり、それを早く彼に話したかった。



 そんな彼女の様子にジャーヴィスとイアンが気付かないはずはなく。
 苦虫を噛み潰したような表情のジャーヴィスを無視して、イアンはミルドレッドに話を振った。


「あれから、何かお気付きになられたようですね?」


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