この悲しみも。……きっといつかは消える
「この黒十字勲章は戦争で武勲を上げた人物に下賜される名誉勲章だよ。
 これはエルネストが2年戦争で出征して、当時の国王陛下から勲章を授かったことを表しているんだ」

「女性はご存じないかも知れませんが、我が国では貴族の後継者は参戦しません。
 彼等も最後には戦いますが、普通は次男三男が出征することになります。
 アダムスでは、同じ双子でもウィラードを領地に留めて、エルネストを戦場に送ったのです。
 そして名誉なことに彼は武勲をあげて戻ってきた。
 当然、領内でエルネストの人気は高まり……反対に出征しなかったウィラードは肩身が狭かったのではないでしょうか」

「兄弟とは言っても、ふたりは生まれたのが数分か数秒か、それくらいの違いで順番が決まっただけ。
 それなのに弟の方が勲章を貰い、家名の価値を上げたのなら、彼を後継者にしようとする動きが出てきても仕方がない」

「……ウィラード様は国で決められたことに従っていただけなのに理不尽な……
 でも結局、エルネスト様の方が勝った……」


 ミルドレッドは複雑な顔をしていた。
 夫のスチュワートは、エルネストの曾孫だ。
 この時、エルネストが敗北していたら、スチュワートは生まれていない。


 どうして、こんな3代も前のスチュワートの曽祖父達の話を延々とミルドレッドに、聞かせるのか。
 素直なミルドレッドだからこそ黙って聞いているが、気の短い者になら、昔のこと等いい加減にしろと文句を言われただろう。

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