この悲しみも。……きっといつかは消える
 元々アダムス家の当主の妻は、レイウッド領内の一族から選ばれていた。
 今回のウィンガムとの婚姻は、王命に因るもの。
 アダムスの双子に纏わるあれこれは領外には漏れる心配は無かったのだ。
 恐らく、あのリチャード・アダムス辺りがスチュワートに、ウィンガムから嫁いでくる妻には内密にするよう厳命していたか……



「……それは、あくまでも仮定ですよね?」


 そう尋ねるミルドレッドは両手を握り締めていて、その声は何かに縋っているように聞こえた。
 今までのスチュワートに抱いていた信頼が揺れ始めているのだろう。


「そうだ、貴族名鑑と言う誰でも手に入る記録を読んで、ギャレットと私が別々の場所で考察した、あくまでも仮定の話だ。
 今夜はそれをすり合わせて、明日からの動きを決めるつもりだった。
 聞きたくなければ、ミリーはもう部屋へ戻りなさい。
 そして、明日ウィンガムに一足先に帰るといい」



 ミルドレッドに向ける兄のこんな厳しい物言いは、初めてだった。


「いいえ、わたしは仮定ですかと確認しただけで、これ以上聞きたくないと言ったわけではありません。
 ですから、部屋には戻りませんし、ウィンガムにも帰らない。
 明日も、おふたりにご一緒致します」

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